伊那の谷

 
家族で伊那に川遊びに行った。広い河原に浅い川が流れ、泳げる深さの淵もある明るい谷だ。

長野では間もなく学校の夏休みが終わるらしく、いい天気なのにそれほど人出はなかった。

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10日ほど前に母がこの世を去った。身体の一部がまだ呆然としているような感じがある。母親を失った無数の人たちのひとりになるのを、どこかで拒んでいるのかもしれない。

そのうち「通常モード」に戻るのか、それともこれが通常モードになるのか、ちょっとわからない。

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伊那の川では、一匹のヤマメらしき魚の亡骸が川底に沈んでいるのを見た。岸に上がると、目の前にセミがポトリと落ちてきて、仰向けになったまま動きを止めた。

まぶしいほどの谷の明るさと、死の静けさが、そこにはあった。

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