チベット医学にまつわる一つの思い出

10年近く前にチベット医学に接する機会がありました。

会社の同僚が妙な丸薬を飲んでいることに気づき、聞いてみたのです。すると、ダライ・ラマの主治医をしていたお医者さんがいる医院が近くにあるということでした。丸薬は大きくて苦そうで飲みたくなるような代物ではなかったのですが、当時退屈していたこともあって、行ってみることにしました。Men-Tsee-Khangという名前の病院です。

特に当時何かを患っていたというわけではないのですが、30を過ぎても顔から消えないニキビのことでも聞いてみようかという感じでした。だいぶ待たされると聞いていたので早く行ったのですが、そこには待合スペースいっぱいの人々がゆっくりまわる天井ファンの下でじっと待っていました。番号札をもらって、真夏の暑い空気の中を2時間ほど待ったところで順番を呼ばれ、小さな部屋にはいると、そこには年齢不詳のチベット人の女医さんが座っていて、ギョロリと見られます。

まずは脈を見せろと身振りで示されたので手を差し出すと、30秒ほど手首の脈を数本の指で押さえたりしながら、ふむふむという表情をしています。そして、おもむろにいった言葉は「今朝足がつっただろう」でした。驚愕です。その朝、思いっきりこむらがえりを起こしていました。

次に言われたのは、「トイレが近い。かなり頻繁に小便をしているだろう。」でした。それも大当たりです。その年、おそらく会社の異常に冷えるエアコンのせいなのか、トイレがとても近くなっていました。

「それで、何が悪いのだ?」と訊かれたので、「ニキビが・・」と答えたところ、ギョロリとした目を細めて歯を見せながらニヤリと笑いました。そんなことで来たのかお前は、という雰囲気です。が、「どうにかなりますか?」と気にせずに問うと、こんな答えがかえってきました。

「まず、刺激になるものをやめること。辛いものなどの香辛料、柑橘系のようにすっぱいもののこと。特にお前はみかんとか柑橘系をとりすぎるようなので、それを止めれば炎症にはならなくなる。あとは薬を出すので、それを飲むように。あとは、小便のことだが、腎臓がかなり冷えすぎて弱っているので、真夏なので妙に感じるかもしれないがエアコンのある場所でだけでも腹巻をすること。」

ということで、処方箋を書いてもらって、丸薬を付設の薬局で買い求めました。二週間分という感じでした。薬局にはチベット解放!(FREE TIBET!)と書いてあるポスターやステッカーが貼ってあったりして、中国人と思われたらどうしようと心配になってしまう雰囲気でしたが、カウンターの向こうの女性はなぜか可愛らしい人ばかりで、薬の説明を聞きながら多少ニヤけてしまいました。

その後、そのとても苦くて固くて嫌になる丸薬を飲み続けていましたが、効果があったのかどうなのかはよく分かりません。腹巻だけは効いたようで、その頃からトイレが近いのはなおっていたように思います。それから、考えてみるとその後は柑橘系の中でもすっぱいものは避けるようになっています。

そんなわけで、それが自分のチベット医学の短い体験だったのですが、足がつったのを当てられたことを会社のスタッフに話すと、「あたりまえだろう。そんなことで何をこいつは興奮しているんだ」という雰囲気の反応だったので、「チベット医学恐るべし」と改めて思ったのを覚えています。

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